【コラム】映画「パーソナル・ソング」を見て
介護にまつわる体験談や思いをつづるコラムです。
今回は、「ひばり」を企画・制作する株式会社ゆうプランニング代表によるコラムをご紹介します。
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わたしの父は94歳で亡くなった。長寿といえば長寿だろうが、8年間は寝たきりだった。最後の2年間は施設で過ごし、2カ月ほど病院で過ごしたのち、亡くなった。
こどもの頃は、兄弟喧嘩をする度に殴られた。よく怒鳴られた。それが大人になるに従って、怒られなくなった。優しく接してくれるように変わった。
父は歩くことが嫌いだった。それでタクシーの運転手になったのかもしれない。年を取るにつれ歩かなくなり、歩けなくなり、寝たっきりになった。
妻とふたりで、たまに娘や息子も連れて、見舞いに行った。そんなとき、父は少し喜んでくれたが、たいていは塞いでいて、「死にたい、死にたい」と言った。わたしはなにもしてあげられなかった。だから父の死に顔をみても悲しくはなかった。弟と妹は泣いていたが……。
父の看病疲れで母が倒れた。施設に入ったが、今は病院に入院している。母は耳が聞こえなくなってしまった。母のためになにかできないか考え、考え抜いたあげく、プリンを買ってあげた。母は「美味しい、美味しい」と言って喜んでくれたが、今はそれもできないくらい弱っている。
そんなときに観た映画が「パーソナル・ソング」だ。人にはそれぞれパーソナル・ソングがある。その音楽を聴くと、ワクワクする、幸せな気持ちになれる、閉じていた心が開く、忘れていた記憶が蘇る。
母にあげたプリン以上の効果だ。死を引き延ばす力になれるかどうかはわからないが、ただ死ぬのを待つだけの時間ではなくなる。生命が蘇る。聴いている間だけでもいい。幸福な気持ちになればいい。生きるとは幸福を味わえることだ。満足をえられることだ。この映画は、音楽のパワーを通して、生きる価値を教えてくれる。
わたしは自身の体験を通して、すべての人は幸福をえる権利があり、そのために生きていると感じる。病院や施設は、多くの人が最期を迎える場ともなっている、とても大切な場だ。そこが高齢な方々に幸福を感じられる場であってほしい。みんなで知恵を絞って、幸福の場にしたい。
わたしの耳には今でも父の声が聞こえる。父と同じような境遇の方々が日本には、世界にもたくさんおられるだろう。その方々のためになにができるだろうか?
映画「パーソナル・ソング Personal Song」 http://personal-song.com/
株式会社ゆうプランニング 代表取締役 木村 正夫
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